パイプスモーキングの醍醐味は様々な個性のtobaccoの味わいが楽しめることです。
あまりに種類が多く、味わいや特徴が忘却の彼方に消えてしまったものも多々あり
自分の備忘録のためにテイスティングノートをつけ始めました。

パイプ葉は個人の嗜好性や飲み物、時間帯、体調、パイプによってもかなり変わります。
なるべく主観に流れないように書くよう注意は払っているつもりですが、あくまでも参考程度にされてください。お役に立てれば幸いです。
ついでにシガーやRYO、ウイスキーについても少し触れています。

2014年7月31日木曜日

Samuel Gawith 1792 Flake



サミュエルガーウィス 1792フレイク
ストーブドバージニア(ダークケンダルフレイク)
トンカビーンズケーシング

サミュエルガーウィスの創業は1792年。1792フレイクがその年のレシピという訳ではないだろうが、サミュエルガーウィス社最古のレシピの一つであることだけは間違いない。

同社のフルバージニアが軽くラブド(ほぐし)にしたりキューブにした方が火持ちも良く味わいもよく分かるtobaccoだったので、この1792も最初ほぐして詰めてみたが、どうもそれは失敗だったようだ。
フレイクのまま折りたたんで火を付けたほうが、火持ちもよく良いアロマ、良い味が出る。

葉様はフレイク、やや乾燥気味。
10〜20分ほどは部屋の湿度になじませたい。

ただ、フレイクの含水率と火持ちと喫味の相関関係をどう捉えるかは結構難しい。
部屋の湿度に馴染ませるということは早い話が自然乾燥だ。フレイクの殆どはこの自然乾燥をやらないとまともには火がもたない。

乾燥しすぎても、過燃焼の原因になったりフレイバーを失ったりして喫味を落とす。
またフレイクは乾燥してくると結局はラブド(もみほぐし)の状態でパイプに詰めるのと形状も喫味も大して変わらなくなる。

この辺の乾燥ぐあいは好みによって全く変わるから、このぐらいの乾燥がいいという基準はどこにも存在しないのだ。

缶を開封してすぐに取り出したしっとりとしたフレイクを塊のままパイプに詰めて火持ちが良い悪い、甘い辛いを言っても始まらないことだけは確かで、自分の好みの乾燥ぐあいを見つけるためには慣れしかない。

だから塊で詰めるのがいいかラブドで詰めるのがいいかという判断も、一概にどれが正しいという絶対的な基準は存在しない。結局は好み。
このtobaccoはそういった、乾燥具合や詰め方がやや難しい部類に入るかもしれない。

その辺を踏まえつつ、塊で詰めた場合の性格はフルテイスト。キックが強く、スパイシーでどっしりと来る。
ラブドで詰めると甘みとスパイシーさは強調されるが、フルテイストと言うほど重量感のあるtobaccoではなくなる。
熟成されているのでいずれにしてもニコチン感はマイルドで付き合いやすい。





生葉の香りはそれほど強いものではないが、郷愁を誘う独特の香りがする。
トンカビーンズをケーシングに使っているとのこと。トンカビーンズはヨーロッパではケーキなどに使われるが日本ではあまりポピュラーではなく、アロマオイルはよく「桜餅の香り」と評される。

「桜餅」というよりは「雨上がり、日向の稲わらの側で」または「古いお寺の縁の下」でナツメヤシのリコリス漬けをこっそり食べようと思案してるようなそんな国籍不明な印象。
カタログには「ドライフルーツ」とある。まあ当たらずとも遠からず。同社フルバージニアには酸味ある芳香があるがこれには全く酸味を感じさせる要素はない。


喫味は序盤、ガツンと辛味に近いスパイシーな喫味の中に、渋い甘みが沈む。この甘味はバージニア特有の甘みのように広がるタイプではなく、パンチ、スパイシーの奥底からにじみ上がってくるような甘みだ。それが絶妙なバランスを生んでいる。

中盤はさらにパンチが効いてきてドミニカやニカラグア産の葉巻を燻らしているような野性的な喫味が支配する。アロマは喫味に較べてそれほど濃厚ではなく爽やかで、尖ったところもない。

終盤は苦味が勝ってくる。深煎りの濃いブラックコーヒーを飲んでいるような、良い意味での不透明感が口と鼻を支配する。
シガーの終盤の苦さ辛さとよく似ている。

苦味が苦手な人は、ウイスキーなどの蒸留酒で口を洗いながら味わうと中和されていいかもしれない。
舌荒れの心配はさほど要らない。慣れないと終了のタイミングは少し早いかもしれない。辛味が勝ち始めたところでやめておいたほうがいい。フレークに慣れてくると最後に旨味甘みを味わうことができる。

総じて洗練されたtobaccoではない。食事やデザートの後に喫したいtobaccoではない。
好き嫌いも分かれると思う。

深夜、なんとなく空腹感が支配しながらもう口には何も入れたくない時など、強い酒か、あるいは逆に水と一緒に空腹感を制して眠りにつきたい時に向いている。

苦味の苦手な人にはおすすめできない。甘みは弱くないが火持ちにテクニックが少々いるので苦味の奥から引き出すのに少々苦労するかもしれない。難しいtobaccoの部類に入ると思う。
でも一度や二度燻らしてみただけでは引き出せない味わいと魅力もある。
通を気取るつもりはないがある程度の年月パイプに慣れ親しんできた人にとっては深みのある、それでいて押し付けがましくない、久しぶりに合う親友のようなtobaccoになるに違いない。


時間帯は夜〜深夜。マイルドなので空腹時でも大丈夫。シガーを燻らす時間がない時などにも良い。
合う飲み物はウイスキー、焼酎、ブラックコーヒーなど。

1900円/50g(2014)


  1. 生葉芳香 弱←○○○○○★○○○→強
  2. 甘  み 弱←○○○○○★○○○→甘
  3. 味の濃淡 淡←○○○○○○○★○→濃
  4. 熟成感  若←○○○○○○★○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○○★○○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○○★○○○○→強
  7. 舌アレ度 弱←○○★○○○○○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○★○○○○○→良
  9. 常喫可能 無←○○○○★○○○○→有
  10. 個  性 弱←○○○○○○★○○→強











Short PEACE (RYO)



ショートピース
バージニア葉
喫煙時間:標準10分、RYO約18分

ピースでRYO(Roll Your Own 手巻きのこと)
と言っても、日本たばこがRYO用の葉を出してくれた訳ではない。
もちろん出して欲しい。今すぐにでも。

ペリクのような香りと味わいを持つ高品質なバージニアの甘い香りと蜂蜜フレーバー、こっくりとしたアロマなど、現在日本で生産されているtobaccoの中では間違いなくNo.1の旨いシガレットだと思う。ちなみによく「バニラ」の香りと言われるがバニラの香りはしない。むしろパチュリやカモミールなどフローラルのブレンドされた芳香に近い。


惜しむらくは、巻紙のせいでせっかくの味わいがかなりスポイルされているということだろうか。
市販のシガレットを公害にしている元凶はアセテートフィルターと紙だ。特に紙が燃える臭いは味を損なうばかりでなく、同じ喫煙者同士でも隣で吸われてイヤな気持ちにさせられる最大の原因となる。吸ってなくてもタバコ臭い。服もタバコ臭い。それは主にパルプ紙によるところが大きい。

ピースは両切りなのでフィルターはない。また巻紙もヘンプ(麻)の割合が高いペーパーを使っている……という話だが、それでも紙臭い。吸い殻もしっかり臭い。


それで僕はピースの巻紙を取って、100%ヘンプペーパーで巻き直して喫している。

とは言っても、市販シガレットの葉は非常に細かく裁断されていて、一度バラして巻き直すのはとても手間がかかる。ローリングマシンを使わないとほぼ不可能。

そこでローリングマシンを使ったピース巻き直しのコツを紹介したい。この方法を使えば、1分もかからず巻き直しができ、格段に旨いピースを味わう事ができる。

用意するのは、79mm用のローリングマシン、ヘンプ100%の79mm用ペーパー(写真ではピュアヘンプの無漂白を使用)、カッターナイフ。
まずピースをマシンにセットする。ピースは70mmタバコなので長さが若干余る。なぜ70mmマシンにセットしないのかというと、市販のシガレットは機械巻きのためにかなりきっちり詰められているため、70mmペーパーだと余分が出てしまうからだ。79mmペーパーで巻くとちょうどよい。

次にセットしたピースの巻紙をカッターナイフで切る。
その時注意するのは、なるべくタバコ全体の形を崩さないように紙だけ切っていくこと。タバコを抑えながら切ると良い。
全て切れたら、巻紙だけを下から引き抜く。
この時もなるべくタバコの成形が崩れないように、葉全体を抑え、回しながら引き抜く。
少しバラけているが、ちょうど79mmサイズに収まる。

ペーパーをセットして巻く。

上が巻いた状態。下は元のピース。
紙の厚みが全く違っていて、中身が透けているのが見える。

ピースをピュアヘンプでRYOにすると、喫味はマイルドになりアロマが強く濃厚になる。
燃焼速度が落ちるので、バージニア本来の自然な甘みをしっかりと味わえるようになる。
紙の燃える臭いはほぼ解消され、爽やかな芳香だけが鼻に抜ける。

ピースをヘンプペーパーで巻き直す理由、メリットの中で最も大きいのは、燃焼速度が落ちるという点だ。市販の状態のタバコはフリーバーニングといって、ほっといてもどんどん燃えてタバコがなくなってしまうまで燃え尽きるように巻紙ができている。これだとスローバーニングができず、タバコ本来の味を味わう事がとても難しい。喫煙時間も頑張って10分程度だ。
これを燃焼補助剤の入らない手巻き紙に替えるだけで、15〜20分まで延びる。吸わなければ自然に火は消える。

これをさらに長めのシガレットホルダーに挿して喫すると、ドライ&スローがてきめんに効いて今まで全く気づかなかったピースの旨さを味わえるようになる。

シガレット喫煙者の多くは、増税や禁煙政策で高くなってしまったタバコを、安いものや軽い物に替えようとする人が大半だ。
喫煙は病気であるというスローガンの影響でまるで犯罪者のように縮こまってしまっている。自分と嫌煙者をまるで敵のように見てしまう人さえいる。

でもちょっと待って欲しい。

まずタバコとは紙もフィルターもなしで喫するのが本来の姿だった。
タバコは不特定多数のいる場所で吸うものではなかった。
時間のない時に吸うものでもなかった。
歩きながら吸うものでもなかった。
肺に入れて吸うものでもなかった。
本来は、思考と瞑想の手助けをしてくれる大切なアロマの草であった。
神聖な儀式の道具であった。
タバコを喫するには、時間と神聖な場所が必要だ。

だから、ニコチンが0.1mgなどというただの燃え草をせわしなく隔離室で吸わされて欲求不満になるのではなく、上質で強いtobaccoを味覚と誇りを取り戻して自分の書斎やバーのカウンターでゆっくりと味わったほうがずっと幸せだ。

それを実現するにはまずフィルターを取り払い、肺喫煙をやめてみる。
「吹かし」に抵抗があるなら、煙管タバコのように鼻腔内喫煙を試してみる。
そうすればタールやニコチンの量に囚われることがなくなってくる。
そして低品質な紙を燃やすのをやめてみる。
その第一歩を踏み出せるtobaccoがショートピースだ。
そしてさらに、できればRYOで。

シガレットだって趣味になる。
それだけでタバコに対する渇望がなくなる。
喫煙場所を探して彷徨わなくてもよくなる。
なぜ自分がタバコを吸うのか、変な理由をつけなくて済むようになる。
喫煙者か非喫煙者かというようなカテゴリーで自分を見なくて済むようになる。
喫煙は病気ではない。
喫煙とは趣味だ。
思考と瞑想の盟友である。


240円/10本(2014年)


  1. 生葉芳香 弱←○○○○○★○○○→強
  2. 甘  み 少←○○○○○★○○○→多
  3. 味の濃淡 淡←○○○○★○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○○★○○○○○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○○○★○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○○○★○○○→強
  7. 舌アレ度 弱←○★○○○○○○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○○○○○○★→良
  9. 常  喫 無←○○○○○○○★○→有
  10. 個  性 弱←○○○○★○○○○→強

2014年7月29日火曜日

パイプの初め

昔の子供はパイプに憧れたのです。
子供がどうしてパイプに憧れるのか、それは一にも二にもテレビの影響とパイプの形をした入れ物に入ったラムネ菓子のせいです。
ちなみに「シガレットココア」なる駄菓子や、まさにシガレットのような紙で巻かれたタバコ状のチョコレートもありました。

なんたる洗脳!

いけませんねえ。今なら消費者庁や市民団体が黙ってはいません。


大人になって実際にパイプに手を出す人は本当に少ないのですが僕はそうではありませんでした。
大人になったらきっとパイプをやるぞ!と心に誓っていました。

で、大人になりました。まだ学生でしたが本人は十分大人のつもりです。
遂にパイプを燻らすその日がやってきました。
もちろん周りにパイプスモーカーなど一人もいません。

学生の頃、稼いだばかりのなけなしのバイト代を握りしめ、パイプと何種類かのパウチの葉っぱを買い込みました。パイプはローランドのビリアード。
今も昔も「カタチから入る」ということができなくて、とりあえず見よう見まねで自分自身で試してみないと気がすまない。
手当たり次第、とりあえずやってみる。
そこから本質のどまんなかに切り込んて行くのが好き。

だから「やり方が分からない」なんてものではありません。セオリーやコツがあることすら知りません。当時は親切に教えてくれるネットも本もありませんでしたから。

おもむろにパウチの中にパイプを突っ込んですくい、はみ出た分は指で押して(タンパーというものの存在も知らずに!)ターボライターで火をつける、シガレットよろしく盛大に煙を吸っては吐きをやる、煙い、熱い、火がすぐ消える、ボウルを焦がす、さっぱりうまくいきません。もちろんあっというまに口の中が痛くなってきます。

それともうひとつ、肺に入れるのか入れないのかも分かりません。なんとなく「肺には入れないらしい」というのはどこかで聞きかじっていたのですが、肺に入れないというのは一体どこでニコチンを摂取するのだろう?と不思議でしかたありません。

しかし不思議なもので全くの予備知識なしでも一ヶ月もするとなんとなくコツというか、舌を焼かない方法、火を一分でも長く持たせる方法というものがなんとなくわかってくるものです。タンパーの存在は知らなくても、鉛筆のお尻で葉っぱを抑えてみたりバイクのボルトを使ったり。

そうこうしているうちに10回に1回ぐらいはパイプの煙が甘くてアロマに陶酔するという感覚を味わえるようになってきました。

それでもこの頃はやはり「タバコ=ニコチン」という先入観が頭の中を支配しており、パイプでせっかく良い喫味を味わうことはできても満足感は得られず、一服となるとシガレットの肺喫煙から逃れることはできません。次第にパイプでも肺喫煙をするようになりましたが、そうなるとパイプはいがらっぽいばかりでちっとも美味しくないのです。

この頃次第に禁煙運動が大きくなりつつありました。パイプの煙は特に嫌われていました。実際には煙の量も臭いもシガレットに比べたらなんてことないのですが、嗅ぎなれないにおいにはみんな敏感に反応するようで、とても人前ではおおっぴらに吸えない雰囲気も出てきました。
もっとも二十代の若造がパイプを咥えているだけで奇異の眼差しなんですけどね。

そんなことや就職する頃にはすっかり忙しくなったこともあり、一旦、僕のパイプライフは終了を迎えます。









2014年7月27日日曜日

Dunhill London Mixture





ダンヒルロンドンミクスチュア
バージニア、ラタキア、トルコ葉
製造国:デンマーク(OEM)


缶を開けて気づく人はすぐ気づくと思う。同じダンヒルのロイヤルヨットと同じフルーツヨーグルトのような香り、そして同時にマイミクスチュア965の香り。ただしどちらもマイルド。

現在日本国内のどこでも手に入るダンヒルのうち、ミクスチュアは4種類。

  1. ロイヤルヨット
  2. マイミクスチュア965
  3. アーリーモーニング
  4. ロンドンミクスチュア


上の1〜3を正三角形に並べて、その三角形の真ん中に4のロンドンミクスチュアが位置する。いわゆる現代における「Dunhill tobacco」の中で最もノーマルなtobaccoだと言っていい。常喫葉の最有力候補。

現在、ダンヒルに煙草製造部門は存在しない。その代わりドイツのスカンジナビアンタバコの傘下企業で、ダンヒルのレシピとライセンスでOEM製造されている。

なので、どれだけオリジナルを留めているかは不明だが、淡い記憶を辿ればロイヤルヨットとこのロンドンミクスチュアに関しては、少なくとも30年前とそう変わらぬ芳香と風味を持っていると言えるのではないか。
パイプを始めた時に初めて買ったイギリス葉がロイヤルヨットで、数年後パイプをやめる時最後に空にしたのがこのLondonMixtureだった。今久しぶりに喫ってみて当時と明らかに違うのは、缶のデザインが醜悪になってしまったことと、スロースモーキングが一段とラクになったことぐらいか。もっともスロースモーキングは自分の技術が上がっただけかもしれないが。




葉様はリボンカット。ラタキアとおそらくストーブドバージニアがメインで、オリエントが少々入った褐色。

火付き、着火はとても良い。この辺はなんとなく他の3種とちょっと印象が違う。

この辺は微妙な推測しかできないが、OEMのラインで製造する以上、ミクスチュアに使う葉は4種それぞれでそんなに違いは出ないだろう。つまり使っている葉は同じでミクスチュアだけ違うはずだ。なのに火付きが大きく異なるというのはキャベンディッシュが少ないのか何なのか。30年前の火持ちはもう少し悪かったような気もするし、もしも製造時の葉の含水率を意図的に変えているとすればそれはそれで驚きだけど。OEMになってからバージニアのケーシングやキャベンディッシュの際にイギリス式のケーク工程を省いているという指摘もあるので、その辺ももしかしたら関係あるのかもしれない。後で正確なことがわかれば訂正したいが、一応メモ書きとして記しておきたい。

喫味は
序盤、素直な甘さとマイルドなアロマ。軽いナッツ感のスムーズでまろやかな喫味。
中盤、やや渋みを増すがマイルド&スムーズ、心地良い甘さとラタキアのアロマ。
終盤、ラタキアが次第に強くなるが軽やかさ、まろやかさは失わない。


全体を通して軽やかで爽やかな甘みが終始しておりスッキリとキレが良い。でも軽々しさはない。ラタキアのアロマがしっかりとベースを支えていて深みを感じる。

安定しているので喫味が変わることなく非常に喫いやすい。とにかくまろやかでバランスのとれた良いtobaccoだと思う。尖ったところもなく、変な癖もない。飽きが来ないので常喫性も高いと思う。
欠点を敢えて挙げれば、舌荒れがやや起きやすい事ぐらいか。
イギリス葉の中では間違いなく喫いやすさNo.1だと思う。

ただ、時々物足りなくなることもある。
というのはダンヒルを選ぶ時、キレのあるスッキリした喫味が欲しいならアーリーモーニング、こっくりどっしりした味が欲しいならロイヤルヨット、まったり常喫できるラタキアが欲しいなら965がある。
それらのどれでもあるし、どれにもひとつ足りないのがロンドンミクスチュアなのだ。

長年のパイプスモーカーでダンヒル好きなら、味の調整が欲しかったら迷わず3つの缶を買い求め、場面に応じてマイミクスチュアを作ってしまうだろう。それで済んでしまう。
ちなみに自分なら965やロイヤルヨットにそれぞれ軽めのフレイクを足すか、もう少しどっしり感が欲しかったらバニラやラタキア、ブラックなどを他から持ってくる。アーリーモーニングだけはそのまま。

TPOや時間帯?そういうことが面倒な人のためのtobaccoといえばそうかもしれない。
印象としてはロイヤルヨットがちょっと火持ちに気を使うところがあったり、TPOによって重かったりすることもあるので、そのライト版として重宝する。

要するに現代の趣味のtobaccoの尺度で見ればロンドン〜はパンチや個性は不足している。でもそれは決して欠点ではなくいわゆる第一次世界大戦後の最もパイプの全盛期、誰しもがパイプを咥え、タバコ屋でサッと買ってサッと詰める忙しい時代のレディメイドベストセラーとしてのtobaccoと位置づけていいと思う。
シガレットで言えばセブンスター。そういう性格のtobacco。

だからイギリス葉が初めての人に「最初に何を喫ったらいい?」と聞かれたらとりあえずこれは勧めるだろう。例えば同じ系統の常喫系のイギリス葉なら少なくともサミュエルガーウィスのパーフェクションとこのロンドンミクスチュアは有力候補。実際よく似ているが、喫味のとっつきやすさ、とりあえず常喫もできて一缶無駄にせずに済みそうなマイルドさに関してはロンドンミクスチュアの方が多くのものを持ち合わせている。そしてなんたって名前がDunhillでLomdonだもの、間違いない。

時間帯は朝から夜にかけて。
合う飲み物は、コーヒー、紅茶、水、ビールなど。
1750円/50g(2014)


  1. 生葉芳香 弱←○○○○★○○○○→強
  2. 甘  み 少←○○○○○★○○○→多
  3. 味の濃淡 淡←○○○○★○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○○○○○★○○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○○★○○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○○★○○○○→強
  7. 舌アレ度 弱←○○○○○○★○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○○○○○★○→良
  9. 常  喫 無←○○○○○○○○★→有
  10. 個  性 弱←○○○★○○○○○→強



2014年7月23日水曜日

American Spirit Perique (RYO)






アメリカン・スピリット ペリク
バーニジア、ペリク葉

基本的にシガレット(紙巻きタバコ)は喫わないが、アメリカンスピリットと、日本のショートピースだけは別で、どちらかはなるべく手元に切らさないようにしている。
メインで吸うことはないが、どうしてもパイプを燻らす時間がない時などの予備として活躍する。

シガレット(紙巻きタバコ)の事を真剣に書こうとすると大変な字数が必要になってしまうので省略するが、シガレットで一番美味しいのは
  1. 両切り(フィルターなし)
  2. 巻紙は無漂白のヘンプペーパー
  3. 燃焼促進剤なし
  4. シガレットホルダーを使用する
  5. 肺喫煙せずなるべくアロマを引き出す
に限ると思っている。
しかしこの条件を全て揃えるとなると、答えはRYO(Roll Your Own-----手巻きタバコ)にならざるを得ない。


アメリカンスピリット(以下、アメスピ)は、オーガニック&無添加を謳い文句にしているアメリカの煙草会社で、既成シガレットとRYOの両方をラインナップにしている。ポリシーや特徴の詳細については他サイトが詳しいのでここでは割愛する。

アメスピの本領が発揮されるのはRYO用の葉だ。ラインナップは4種類。付属している巻紙は全て78mmヘンプペーパー。
この中でも「ペリク」は現代我々がリアルタイムで味わえる最高傑作tobaccoのひとつだと思う。

葉様はファインカットで、他のRYOのようなシャグカット(※1)ではない。
シャグは葉がまとまりやすいので手巻きでは重宝するが、半面味の線も細くなり、分かりにくいものになりやすい。また細い分乾燥しやすく開封後の鮮度の保持が難しい。ファインカットはシャグに比べると若干その辺は鷹揚で鮮度の保持も容易。半面葉がまとまり難いのでローリングマシンが必要になる。

ペリクというのはtobaccoをバーボン樽の中で発酵させるもので、押し鮨と古漬けを足したようなもので、独特の芳香と重みのある甘みと喫味が特徴。アメリカの限られた地方企業でのみ製造されている珍しい加工tobaccoだ。ミクスチュアで使われることが多い。アメスピのペリクもミクスチュアだ。

喫味はマイルドで自然な甘み、アロマは香り高く品のあるもので、無漂白のヘンプペーパーではそれが最大限に引き出される。とにかく飽きない。
日本のショートピースもアロマは強いが、巻紙のせいで喫後のルームノートに嫌気が残るのだが、アメスピのそれはどこまでも自然で、tobaccoが本来持つ芳香をきちんと伝えてくれる。

おすすめはRAW Classicか、Smoking Hemp。副流煙と言えば喫煙の害の真犯人のように言われているが、確かにパルプペーパーのそれはお世辞にも身体に良さそうとは思えない刺激臭の塊だ。しかしパイプや葉巻、またヘンプペーパーなどを使用したシガレットではこの副流煙は主流煙と較べて大きな害の差や遜色があるわけでなく、良いアロマをもたらす大切な要素となる。良いtobaccoはこの副流煙が良い喫味とアロマとシガレットとは思えないようなルームノートをもたらしてくれる。

アメスピペリクは、そんな手巻きtobaccoの美点をあますところなく発揮できる。
長めのシガレットホルダーがあればクールスモーキングにより深いアロマを味わうことができ、まるでパイプスモーキングをしているような錯覚さえ起きる。

欠点はやはり喫後、紙巻き故の紙臭さが、ヘンプペーパーであってもやはり少しは口の中や服に残ることか。それと吸い殻の臭い。それでも市販の既成シガレットに比べたら比べ物にはならない。パイプスモーカーにとっては小さくはないが。

満喫感はショートピースよりややマイルドに感じる程度。

平均的な喫煙時間は70mmペーパーで約15分ほど。
時間帯は、午前中。
合う飲み物は紅茶、コーヒー、水など。
70mmペーパーで巻いた場合の平均重量は約0.7g前後。57本分。
78mmペーパーで約0.9g。44本分。
価格1080円/40g


(※1)tobacco葉は刻み幅で名前がついている。一番細かいのは「刻み」と言って日本の煙管用、次が「シャグ」手巻きタバコ用、次が「ファインカット」既成シガレットやミニパイプ等でよく使われる刻み幅、その上が「リボン」一般的なパイプ用に使われる。


  1. 生葉芳香 弱←○★○○○○○○○→強
  2. 甘  み 少←○○○○★○○○○→多
  3. 味の濃淡 淡←○○○○★○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○○★○○○○○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○○○★○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○○○★○○○→強
  7. 舌アレ度 弱←○★○○○○○○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○○○○○○★→良
  9. 常  喫 無←○○○○★○○○○→有
  10. 個  性 弱←○○○○★○○○○→強






2014年7月19日土曜日

Samuel Gawith GrouseMoor


バージニア

サミュエルガーウィス社最古の葉の一つに挙げられるグラウスムーア。
しかし決して古臭いtobaccoではない。それどころか21世紀の今でさえもこれほど洗練された美しいtobaccoは他に見つけるのはなかなか難しい。
古いイギリスtobaccoでありながら着香系という、ちょっと異色の存在でもある。(イギリス葉は1980年代までtobaccoへの着香料使用は厳しく規制されていた)
それ故、着香系とは言ってもコンチネンタルなそれに較べたら、着香などされていないも同然の自然で優しいものだ。

生葉は爽やかなフローラルとフルーツケーキのような香りが入り交じった優しい女性的な芳香がする。どことなくりんごの香りもする。
葉様は色がとても明るくて山吹色に近い。缶にはみっしりと圧縮されて入っているが、他のサミュエルガーウィスのようにしっとりはしていない。比較的乾いた葉だ。よって火付きも火持ちも全く苦労しない。


序盤、豊かなアロマと優しいほのかな甘み。それは砂糖や蜂蜜や甘味料などでつけた分かりやすいべったりした甘さではなくとても自然だ。かといってバージニア特有のそれだけでもない。フルーティな甘みがバックグラウンドにある。

この葉はアロマは私が喫ったそれほど多くない葉の中では間違いなく3本の指に入る。バターとまではいかない、若いチーズのようなクリーミーなアロマと、抑えの効いたフルーティな甘みのハーモニーは本当に素晴らしい。
この由来は一体何だろうと思い、想像を巡らす。

生葉の芳香からリンゴかなあと思ったが、リンゴ系特有の強い残香はない。もしかすると生葉で感じたリンゴのような香りはカモミールなのかもしれない。

ふとブラックベリーやラズベリーをコンポートにして酸味を飛ばすとこういう風味が出ることを思い出した。元々のベリーの甘酸っぱさとは全く違う練られた甘み…そう、これはワイルドベリーのケーシングだ。もうひとつ、ペア(洋梨)を連想させる。ケンダル地方がペアの産地であるかどうかは分からないが、明らかにペアを彷彿とさせるアロマが顔を覗かせている。

中盤〜終盤にかけてフルーティなアロマは次第に弱くはなっていくが、消え去って別物になることはない。喫味はあくまでもマイルド、そしていつまでも飽きない。
大陸系の着香葉にはいくらでもアロマや甘みが強いものはある。しかしそれらの殆どは強すぎて喫っているうちに飽き飽きするし、結局tobacco本来の旨味をとるか着香のアロマを取るか二者択一になってしまうようなところがある。
しかしグラウスムーアはそのどちらも損ねることなく両立している。あくまでも自然で主張しすぎることなく、たっぷりとバージニアとアロマを味わえる深いtobaccoだ。これほどイマジネーションを掻き立てられるtobaccoも珍しい。

tobaccoは飲み物だけでなく、音楽ともとても合う。
限定はしたくないがグラウスムーアはJ.S.BACHのピアノやチェンバロ曲がとても良く合う。特にグレン・グールドの弾くゴルドベルク変奏曲。これは20世紀の演奏だが伝統的なそれとは一線を画し情緒的で緩やかな時間が流れていくような音楽だ。本来は子守唄代わりに作曲されたものだが、グールドの演奏とグラウスムーアの煙は草原にいて陽の光を浴びて寝転んで流れる雲を見ているようなそんな感覚にしてくれる。



グレン・グールド ゴルドベルク変奏曲(1981年盤)


喫感はマイルド。ただしニコチンは軽くはない。
時間帯は朝〜午後にかけて。
合う飲み物は紅茶、水など。
1900円/50g(2014国内)

  1. 生葉芳香 弱←○○○○★○○○○→強
  2. 甘  み 少←○○○○○★○○○→多
  3. 味の濃淡 淡←○○○○★○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○○○○○★○○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○○○○★○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○○★○○○○→強
  7. 舌アレ度 弱←○○○○★○○○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○○○○○★○→良
  9. 常  喫 無←○○○○○○★○○→有
  10. 個  性 弱←○○○○○○★○○→強


2014年7月17日木曜日

Sweet Dublin Irish Whiskey






内容:バージニア、キャベンディッシュ、アイリッシュ・ウィスキー
製造国:デンマーク

学生だった数十年前、初めて国産のビリアード型のパイプとこのスィートダブリンを買い求め、パイプ喫煙に入門した。パイプは3000円弱、葉は500円前後のように記憶している。

当時、スイートダブリンが初心者用のパイプたばこと言われていたかどうかは分からない。なにぶん、周りにパイプをやっている知り合いなど一人もいなかった。

しかし今改めてこうして喫ってみると、スイートダブリンはパイプ入門に最適のtobaccoだと思う。

葉様は理想的なリボンカットでムラもなく詰めやすい。湿り気も開封時がちょうど良い。欠点は過燃焼になりやすく、それ故舌焼けしやすいことぐらいか。

生葉の香りはほんのりと甘い。ケーシング(香りづけ)にアイリッシュ・ウィスキーを使用しているということだが、おそらくそれだけではなく複数の香味付けがされているはずだ。

ただ、他のいくつかのコンチネンタルな着香系のtobaccoにも言えることだが、30年前と現在とではかなり喫味や芳香は異なってきており、現在のそれは非常にマイルドで自然なものに変わっている。当時は生葉芳香もルームノートも今よりずっとドギツく、ムッと充満していた。これはあくまで推測だが、かつてはエチレングリコール系の保湿剤または甘味料の影響もあるのではないかと思う。


火付き、火持ちは非常に良い。無造作にボウルに詰めても、慣れている人ならマッチ一本で火種ができるほどだ。故にやや強めに詰めてちょうどいい。

喫味は序盤から甘みとこっくりとしたアロマが程よくまとわりつく。これがいわゆるパイプの煙だよと語りかけるような、見本のような分かりやすい喫味だ。
一方でウィスキーで香りづけしたということを忘れてしまうような茫洋としたところもある。アイリッシュ・ウィスキーというより、「ウィスキーボンボンの水割り」といった感じか。

中盤にかけてもマイルドな甘みは続くが、次第に膨らみはなくなってきてtobaccoらしい喫味になってくる。単調気味になりつつある甘みに渋みが混じってきて過燃焼と舌荒れに注意を要する。

終盤は着香バージニア系リボンカットの常で喫味のキープがやや難しくなる。もしパイプを始めて間もない場合は、辛味やエグみのある香りを感じたらその辺で喫煙終了として、残り葉は勿体無がらずに捨てた方が良い。その場合の時間の目安は30分程度だ。

もちろん上手くスロースモーキングできるようになれば、その倍は火を持たせることができるようになるが、それはもちろん舌焼けとの兼ね合いになる。

数あるパイプ葉の中では決して個性のある方ではない。しかし先述したように喫味とアロマは典型的でパイプ葉の中庸であり、初心者にとってはパイプtobaccoを手っ取り早く知るのに最適。ベテランにとっても気を使わずに手を伸ばせるサブの葉や、ミクスチャーの土台として重宝する。


時間帯は昼〜夜にかけて。
合う飲み物は、紅茶、水、ウィスキーなど。
1200円/50g(2014)

  1. 生葉芳香 弱←○○○○★○○○○→強
  2. 甘  み 少←○○○○○○★○○→多
  3. 味の濃淡 淡←○○○○★○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○★○○○○○○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○★○○○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○★○○○○○→強
  7. 舌アレ度 弱←○○○○○○★○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○○○○○★○→良
  9. 常  喫 無←○○○○○★○○○→有
  10. 個  性 弱←○★○○○○○○○→強

追記:ラタキア系とミクスチュアするととても味わい深い。スイートダブリンの明るさ、やや平坦な甘さとラタキアの熟成感が出会うと、深みのある甘さとこってりしたアロマが表面に出てくる。

2014年7月14日月曜日

Samuel Gawith Black XX





サミュエルガーウィズ ブラックダブルエックス (UK)
RopeCut
バージニア



いくつかの単語で表現すると、強烈、プリミティブ、野蛮、豪快、そして絶品。

まずは葉様…というより容貌。
ロープ(縄)タバコ。缶を開けて出てくる姿は事前に分かってはいてもやはり度肝を抜かれる。表面はつやがありほんのり油っぽい。

ロープはパイプ葉の中で最も古いスタイルと言われている。由来は様々だが、葉巻に似ていて、Tobaccoの葉をよって縄状にしている。ほぐすとフィラーとラッパーに分かれている事に気がつく。ただ葉巻と違うのは、とにかく湿っていて重いこと、そして長いこと。製造時は本当にロープのように長くロールして保管、缶に入っているのはそれを短くカットしたもの。

芳香は、どことなくセロリを思わせる爽やかでスパイシーな香り。けれど熟成しているせいか野沢菜の漬物のような隠れ香もする。tobaccoらしい香りは皆無。

アニスでキャベンディッシュしているとのことだが、それが葉や茎の絞り汁であるか、種のエキスであるか、はたまたアニスオイルであるかは分からない。表面のテカリはオイルだが、アニスオイルだろうか。「アニスオイルにドブ漬けして」という説明もサイトで見かける。
ただ、セロリやパセリに似た香りが強く、いわゆるアニシードの香りもしないわけではないが熟成香に隠れてやはり爽やかな香りが勝っていることや、後述するオイルの焼ける匂いが全くアニスとは似ても似つかない事などから、やはりハーブとして葉や茎の絞り汁を使っているのかもしれない。


これをナイフ等で輪切りにしてパイプに詰める。本来ならパイプの深さに合わせて切ったものをそのまま入れて喫するのだそうだが、通気性がよろしくないのでまず無理。もう少しこまめにスライスしてほぐして使う。
切った感じはまさに「濡れた葉巻」。

通常のパイプで約7mmを2つ。手で適当にほぐしていくが、思ったよりは容易で、ほろほろとほどけていく感じだ。あまり丁寧にほぐさなくても良いが、火持ちが気になる人はほぐして一枚一枚薄く伸ばした方がいいかも。

ほぐした葉の色や手触りは、とてもやわらかい都こんぶ。
これをしばらく部屋の湿度に馴染ませてからパイプに詰めてゆく。ロープ状の時に感じたほどにはモイストではない。要するにオイルが染みている状態。

火付きは良い。火持ちは決して良い方ではなが、丁寧にラブド(ほぐし)にしてなじませると意外に良くなる。火持ちに粘りはないのでこまめなパフィングやタンピングは要る。

その日喫う分の量を予めほぐしてパウチなどに入れて自然乾燥させておくと火持ちに関しては全く他のtobaccoと遜色はないなとは思ったが、考えてみればこのロープtobaccoを一日に何ボウルも常喫できるとも思えないのでやめておくことにした。

序盤、喫味は渋い。豪快というか乱暴というか、甘みとかクリームとか、普段パイプ葉に抱きがちなイメージは全く出てこない。とにかく渋い。若干の爽やかさが渋みの中から覗く程度。この爽やかさは明らかにアニスのものだ。

それよりもアロマが個性的だ。いや、個性的と言うのだろうか。tobaccoの匂いではない。ステーキや焼き肉。たぶん油の焼ける匂いだと思う。「なんじゃこりゃ!」だ。そもそもアニスオイルは焚いても決してこんな匂いにはならないし。
進むに連れて少しずつマイルドにはなってゆくけれど、ステーキ臭がダメな人はこのTobaccoはやめておいた方がいいかも。

最初は渋いながらなんとなく爽やかさも感じる喫味だったが、中盤からボディブローのように鈍くヘヴィなパンチが効いてくる。とにかくニコチンが強い。これはロブストのような太くて強いシガーの喫後感に似ている。酩酊感がどんどん深くなる。私はニコチン耐性は高い方なのでパイプ喫煙ではニコチン酔いは殆ど起こさないので平気だが、普段あまりヘヴィに吸うのでない方は、空腹を避け、火持ちを気にせず休み休み喫したほうがいいと思う。

中盤から終盤にかけて、非常にねっとりした喫味に変わってゆくが、お世辞にも味のあるたばことは言い難い。
ただ、初めは大味なTobaccoだなあと感じていたが、よくよくアロマの状態に気を配って燻らしていると、突然「ここだ!」というポイント、クライマックスがある。このクライマックスは主にアロマから得られる。

例の油の焼けるような匂いがいつのまにか消えて、ウッディでなんとも神秘的なルームノートが周囲を満たす。そして深い満足感が満ちてくる。
ここがイギリスtobaccoの不思議というか持ち味なところで、良く言えば懐が深い、悪く言えば分かりにくい。


こういうtobaccoを喫するといつも思うのは、tobaccoとは一体なんなのか?という疑問だ。
嗜好品なのか趣味なのかアロマテラピーなのか薬なのか毒なのか、よく分からなくなってくる。

ヨーロッパ人がtobaccoを発見する以前は、インディアンはtobaccoを単なる嗜好品だけではなく神聖な植物で、儀式の時に焚いたり喫してトランス状態を作り出したと言われる。
それがマリファナでもなくコカでもなくtobaccoだったという点は、現在のわたしたちに示唆を与える。人によっては「当時のtobaccoの品種はもっと幻覚作用があったのだ」(アルフレドダンヒル)という人もいる。しかし私はちょっと違うのではないかと思う。

例えばホワイトセージという葉がある。薬理的に言うと幻覚作用も覚醒作用もない。しかしこれもインディアンの儀式に使われる重要なものだ。これによってやはりトランス状態を作り出すきっかけになる。

使い方はスマッジングといって、刈り取って乾燥させたものをきつく束ねて火を付け、ルームノートを作りだす。tobaccoもスマッジングで使われることがあったので似ている。
セージはとんでもない大量の煙が出るが、その煙は大地や人の浄化の意味がある。

そしてその煙は素晴らしいアロマを提供すると同時に、スマッジングすると人に神聖で敬虔な気持ちを抱かせ瞑想状態になる。場合によっては激しい頭痛の原因にもなる。
それは決して幻覚とか忘我の状態ではなく、自己の持つ精神性のある一部分をブーストし、神や自然と一体になるきっかけを与えてくれる媒体のような役割。
日本やインドのお香とも似ている。

tobaccoも同じで、友情の儀式、和平の儀式、大地への感謝の儀式などで使われたという。それはいたずらに忘我に至るのではなく、煙、つまり副流煙のアロマとルームノートが人間の精神をブーストし、リラックスと神秘体験を通じて敬虔と智慧、友愛と平和に誘ってくれる存在であった。

ブラックXXはそんな古いtobaccoの名残を残している。余計な着香もなく、かすかにアニスの痕跡。熟成された原始的で根源的なアロマ。豪快のち瞑想に誘う深い満足感。
人には積極的におすすめしないが、個人的には非常に気に入った葉の一つ。ただし出だしは焼き鳥臭なのでご注意を。
でも美味しく吸えます明らかに。チャレンジする価値はある。ハードボイルドなtobaccoだ。

舌アレはそれほど強くはない。ブローもドローもそれほど気を使わなくても良い。
むしろ煙は多めに盛大にスマッジングするようにパフしたほうがいい。
いつも書いているが、伝統的イギリスタバコのようにモイストなものになればなるほどちまちましたスモーキングはうまくいかない。ボウルの温度に気をつけさえすれば、煙は多めの方が味わいがよく分かる。

それと注意点として、独特のアロマが喫後もパイプに残るので、繊細な香りのtobaccoとパイプを兼用しない方が良い。できれば専用のパイプが望ましい。

時間帯は問わないが、重いので空腹時は避けたほうがいいかも。
まさに焼き鳥、焼き肉、ステーキの食後にいい。ウォッシュタイプやブルーチーズの後にも良い。
合う飲み物はコーヒー、濃いお茶、蒸留酒、甘い飲み物など。
1900円/50g(2014)

  1. 生葉芳香 弱←○○○○★○○○○→強
  2. 甘  み 少←★○○○○○○○○→多
  3. 味の濃淡 淡←○○★○○○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○○○○○★○○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○○○★○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○○○○○○★→強
  7. 舌アレ度 弱←○○○★○○○○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○★○○○○○→良
  9. 常  喫 無←○★○○○○○○○→有
  10. 個  性 弱←○○○○○○○○★→強








2014年7月11日金曜日

Monte Cristo No.1




Monte Cristo No.1 
サイズ:ロンズデール(165mm×16.7mm)
原産国:キューバ
喫煙時間: 約70分(通常)、100分(後述パイプ使用時)

モンテ・クリストのNo.1もしくはNo.3ばかりになってずいぶんと年月が経つ。
そうは言っても常喫できるほど手軽なシガーというわけではないので、節目の定番として愛用している。

2014年現在、日本でのハバナシガー売上のトップはモンテ・クリストだそうだ。久しぶりに訪ねたタバコやさんが教えてくれた。
ヨーロッパでは長いことトップだそうだが、私が初めてプレミアムシガーの味を知った20年近く前はそうではなくて、ロメオ・エ・フリエータかコイーバがメジャーで、モンテ・クリストは上級者用と言われていた。
つまりはモンテ・クリストが売上No.1になったということは、それだけ日本でもシガーの味を良く知る人が増えたのだと思う。

なぜ当時、ロメオ・エ・フリエータやコイーバが人気だったかというと、1にも2にも知名度が違った。
ロメオ・エ・フリエータは文字通り「ロミオとジュリエット」で、覚えやすさと銘柄の絵柄で人気があった。
コイーバももちろんカストロ首相愛用という知名度はあるが、後にアイドル系若手俳優がドラマの中で手にして更に人気に火がついた。

どちらもモンテ・クリストと並んでハバナを代表するシガーには変わりないが、モンテ・クリストに比べれば喫味が爽やかで上品だ。特にコイーバはくせのない甘い味と特徴的なアロマがずっと続くので、初めての人にはおすすめ。これでハバナにハマる人は多い。ただ慣れてくると若干物足りなくなることがある。

比してモンテ・クリストはどのサイズも総じてやや土臭く、熟成の深い男性的な喫味のため、初心者にはやや向かない部分もある。
しかし一度モンテ・クリストの深みを味わうともうもどれない。

それでもこの「No.1」はまだマイルドな方だと言っていいかもしれない。
序盤はいかにもハバナらしい甘やかで香ばしい干し草のような喫味。
葉巻の本来の甘みとは、モンテ・クリストが持っているそれのことだと思っていい。
しかしその奥にはガツンとした刺激が芯のように一本通っている。
これはコイーバにはないものだ。コイーバはそういった野趣を極力抑えて、ハバナの上澄みのような味。ロメオはもう少し散漫でほどよいスパイシーさが持ち味。

クライマックスは中盤以降、アロマが熟成感を増して荒々しい芳香を放つ瞬間にやってくる。スパイシーでこっくりとしたアロマのオーラが終盤までずっと自分にまとわりつく。
プレミアムシガーの醍醐味と表現するのにふさわしいアロマの時間が長いのが、「No.1」の特徴。
終盤は次第にスパイシーさが勝ってくるが、辛味や金属臭はせず非常に上質だ。アロマが本当に長持ちするシガーだ。

ここで裏技をひとつ。
ショートスモーキングパイプ(私はフカシロのボウル径17mmタイプを愛用)が手元にあれば、ぜひそれを活用してほしい。
普通の「咥え」のスモーキングだと3/5あたりで「もうそろそろ終了だな」と感じる。

その時点で、ショートスモーキングパイプに差し込んでしまう。
そうすると喫味が少し戻り、マイルドに変わるのを感じることができる。その時、ドロー(吸い)よりもブロー(吹き)を意識的にするとアロマを更に長く味わうことができる。結果的に9割まで喫することが可能になる。最後まで吸えるのはパイプスモーキングだから当たり前なのだけれど、それだけでなく吸口が遠く細くなることでスムース&クールになるためで、スパイシーさがエグみや辛味に変わる時間を遅らせて「咥え」ではあまり味わうことがない「アロマの底強さ」を味わうことができる。(甘みは既に消えているのでご注意を)
パイプの径をシガーの径に合わせる必要があるが、ロンズデールやコロナなら17mm径パイプが使える。(モンテ・クリストの場合1,3,4)

人前では格好の問題でなかなかできることではないが、書斎で燻らす時にでもぜひ試してみてください。

モンテ・クリストに限らず、プレミアムシガーは湿度管理が非常にシビアだ。私も気をつけていながら、ついつい大事にするあまりラッパーをひび割れさせてしまう事がある。自前で良いヒュミドールがない時は、シガーはヒュミドールのあるお店で買い、数時間以内に味わってしまうのが良い。シガーは生もの。

2100円/本(2014)







Davidoff Mini Cigarillos PLATINUM



Davidoff Mini Cigarillos PLATINUM(ダヴィドフ・ミニシガリロ・プラチナム)
製造国:デンマーク
原産国:インドネシア(バインダー)、エクアドル(ラッパー)、イタリア/ブラジル/ドミニカ(フィラー)

シガリロをどれか一つだけ選ばなければならないとしたら、モンテ・クリストかこのダヴィドフのプラチナムのどちらかにするかでかなり迷うと思う。

ハバナ産シガリロの中で挙げるとすれば文句なしにモンテ・クリスト、次点は鼻の差でロメオ・エ・フリエータ。どちらも深いアロマが身上でハバナ愛好者だけでなくシガー入門にも最適だ。
よく話題になるコイーバはシガーにある深みをシガリロでは再現できていなくて、ハバナの中では頭ひとつ後ろを追っている感じ。シガリロの弱みとはまさにその一点で、細身であることも手伝って味が尖りがち。同じ葉を使ってもなかなかコロナサイズのような柔らかくて深い味わいは得られない。

「シガーはハバナ、ただし大きさはコロナ以上に限る」と言われる所以。

ダヴィドフはその固定概念を覆してくれる数少ない非ハバナ産のシガリロ。
その中でもプラチナムは特に秀逸で、シガリロとは思えないフルボディのアロマ、甘み、スパイスのハーモニーをダイジェストで味わえる。辛味を「スパイス」と勘違いする向きは少なくないが、これはシガー本来のスパイシーがどういうものであるかを分かりやすく教えてくれる。

ダヴィドフのミニシガリロは「ミニシガリロ」「ミニシガリロシルバー」そして「ミニシガリロプラチナム」の3種類。主な違いは葉の原産国とブレンドだが、喫味的には順にMedium、Mild、Fullと捉えたら良いと思う。


ハバナシガリロが、シガーの余り葉を使って製造している関係もあり、個体差やロットによると思われる品質のばらつきがあるのに比べ、シガリロのための葉のブレンドが考えつくされ、品質も安定しており洗練されている。

驚くのは、これは高級プレミアムシガーには似合わない表現だが、終盤に近づけば近づくほど、豊かなアロマと味わいが表に出てきて、なかなか火を消せなくなるという点だ。

シガーはその味を楽しめるのはせいぜい全体の3/5、中には1/3もいかないうちにエグみや金属臭でどうしようもなくなるものもある。


シガリロに至ってはさらにシビアで、シガーとはそういう身上のものだからそれでいいのだけれど、ダヴィドフは最後の最後まで喫っても味がほとんど落ちないのが不思議だ。
故になるべくシガリロ(シガレット)ホルダーで味わいたい。喫煙時間は10〜15分。

ミニシガリロは分類的にはドライシガーの部類に入れられているが、ちゃんとしたtobaccoショップではヒュミドール保管されており、そうでないショップとは明らかに品質が違う。もしドライの状態で手に入れた場合は、数日保湿してやると良いと思う。

1800円/10本入り、3600円/20本入り(2014)




2014年7月8日火曜日

Samuel Gawith Perfection



サミュエルガーウィズ パーフェクション(UK)
バージニア、ラタキア、トルコ葉 、バニラ


カタログによれば、サミュエルガーウィズの地元ケンダルに住み、ロンドンに行ってお気にい入りのミクスチャー(ブレンドタバコ)を買うのが大変だというお客のために作ったのが始まりとのこと。その客が「パーフェクトだ!」と言ったところからついた名称。
案外ダンヒルで自分専用のミクスチャーを作ってもらっていた人なのかもしれない。


缶の封を開けると薫香が広がる。一瞬おなじみのラタキア(シリア、キプロス産の燻製葉)かなと思いきや、注意深く嗅いでみると酸味香があまりしない。ストーブバージニア(葉の加工法で熱乾燥したもの。甘みが増しエグミや有害物質が消える)の香りではないだろうか。バニラの香りづけがされているとの事だが、生葉からはそれらしい香りはしない。

カットは理想的なリボンカット。小さな缶に50gの葉がみっしりと詰められており、まるでケークのよう。一角を崩せばすぐにほぐれる。
葉様はややモイスト。火付きはとても良い。

序盤
喫味は非常にマイルド。火持ちもとてもいい。煙量は多め。あまりスロースモーキングに気を使わず、ブロー&ドロー(パイプ喫煙は吸うだけでなく、煙や息をボウルに戻してやる作業で成り立っている。この吐き〜吹きの強弱がtobaccoの個性を引き出すカギになる)を心持ち強めにしながら味わう。アロマは目立たないがクリーミー。柔らかい甘味が顔をのぞかせる。

中盤になると甘みがほんのり増してくるがやはり前に出るほどではない。角がとれた柔らかくスムースな味わいが続く。アロマにこっくりとしたナッツ感が出てきて少しずつ喫味に満足感が出てくるが、これもそれほど主張する訳ではない。

終盤、パンチとコクがやや深まってくる。ラタキアの個性が顔をちらりと出してくる。葉が湿って立ち消えすることが多いが、喫味は最後まであまり大きく変化はしないので、最後まで吸う工夫をして良いと思う。お香を焚きしめたような上品なルームノートがほんのり残る。

バニラは云われないと気づかないほど弱い。というよりこれをバニラフレーバーとするのは無理があるだろう。ブレンド葉を繋いで尖ったところを丸めて統一感のある喫味に仕立て上げるために活躍している感じ。

クセのない素直な喫味。全てにおいて中庸。でも無個性とも言い切れない。スムースなので一見単純な喫味かとおもいきや、思い出したようにナッツやフルーツ、ラタキア、トルコなど、ダイジェストのように様々なアロマが顔を覗かせてくれるので意外に飽きない。またブロー&ドローの強弱に気を使うこともないので、パイプスモーキングが数段上手くなったような気分になれる。

マイルドなラタキアと奥の方になんとなく香るトルコタバコのイメージは、ラタキアやオリエントを喫んでみたいが、未経験という人や苦手意識のある人にはベストチョイスのブレンドだと思う。とにかく吸いやすくヘンなクセもないtobaccoだ。イギリス葉そのものが初めてという人にもおすすめ。

かなりスムースで常喫性が高いのでベースにブレンドを作っても面白いと思う。フレーバー葉を少し足したり、バージニアを足してパンチを効かせてみたりすると、さらに楽しめると思う。

昼から夜にかけて。あっさりした軽食などの後にも良い。
合う飲み物は、コーヒー、紅茶、水、ビール。
1900円/50g(2014)

  1. 生葉芳香 弱←○○○○★○○○○→強
  2. 甘  み 少←○○○★○○○○○→多
  3. 味の濃淡 淡←○○★○○○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○○○○○★○○○→熟
  5. アロマ  淡←○○○○★○○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○★○○○○○→強
  7. 舌アレ度 弱←★○○○○○○○○→強
  8. 火持ち度 悪←○○○○○○○★○→良
  9. 常  喫 無←○○○○○○○★○→有
  10. 個  性 弱←○○○○★○○○○→強


 

2014年7月6日日曜日

tobaccoの薬理作用に関するメモ(4)

4. ヤニクラと一酸化炭素

喫煙自体、積極的に勧める気はありませんが、もしも今、どうしてもタバコを始めたいと言う人がいたら、こう言います。
「パイプかシガーにしたほうがいいですよ。」
まあ、どっちにしたって身体にいいとかそんなことはないし嗜好品ですから無理強いはしませんが。

紙巻きタバコを喫した時と、パイプorシガーの時は、明らかに身体的反応が違うのです。

例えばパイプを喫している最中は、ちょうどお酒を飲んだ時のように軽い酩酊感があります。頭はハッキリしています。先述した通り瞑想のような状態です。

紙巻きの場合は、喫している途中からなんとなく頭の芯がぼんやりしてきます。そして喫煙後しばらくそれが続きます。

「ヤニクラ」という言葉があります。ニコチンが強すぎて一時的にニコチン中毒を起こして、目眩や吐き気を催すことを指して言います。
紙巻きタバコの場合、肺喫煙のためにニコチン摂取を無意識にコントロールしにくくなり、急激に血中濃度があがるために特に吸い始めて間もない人はそうなる傾向があります。

でも、ヤニクラって、ニコチンだけなのだろうか?と思います。
どうも生まれて初めてタバコを吸った時のあの目眩と、吸いすぎて起きる気持ち悪さは、別物のような気がするぞと。

一酸化炭素。

紙巻きを肺喫煙していた頃、友人達と徹夜で麻雀をしたり飲みに行くとつい本数が増え、そのたびに体調を崩していました。吐き気こそありませんが、頭痛や肩こり、関節痛まで起こしていました。
私は元々麻雀は弱い方ではないのですが、前半一人勝ちしておきながら、長期戦になると後半で大負けするクセがありました。粘りの問題もありますがやはりタバコの煙にまみれているうちにどうしてもカンが鈍ってくるのははっきりしていました。
初めはこれを、ヤニクラ、つまりニコチン摂取のし過ぎだと考えていました。

ところがパイプを始めてすぐに、それがニコチンのせいではないと考えるようになりました。パイプではどんなに量が増えても、極端な話一日中咥えていても全く体調に変化がないのです。

余談ですが、その後麻雀から遠ざかり、タバコもすっかりやめてしばらく経った頃、誘われてしばらくぶりに麻雀をしてみたら半荘4回全て一人勝ちでした。タバコは麻雀にはよくないですね!

「目眩」「吐き気」は急性ニコチン中毒の典型的な症状ですが、もしも「頭の芯がぼんやりする」「肩こり」「頭痛」「関節痛」が出てきたら、明らかに一酸化炭素と酸欠のせいです。

もちろんパイプの葉が一酸化炭素を出してないと言うつもりはありません。
物が燃える時は必ず一酸化炭素を出します。
しかし紙巻きタバコの紙や葉が燃焼時に出す一酸化炭素は、tobaccoの葉自体が出す一酸化炭素に較べて桁外れに多いのです。
そして一酸化炭素は例外なく肺から吸収されます。

一酸化炭素は、喫煙という行為の中で摂取する物質の中で最も有害性の高い物質です。
「認知症はタバコも酒もやらない人に多い」「ニコチンは認知症を予防するのでは?」という報告や臨床例がある一方で、今だに「喫煙者は認知症になりやすい」という医学的常識が厳然とあり、認知症を発症している人がタバコの火を管理できなくなって怖いという話を聞くことが多いのは、紙巻きタバコの一酸化炭素によってニコチンの薬理が帳消しになっている部分も無視はできません。

ニコチンは血管を広げます。しかし一酸化炭素は血管を収縮させます。この矛盾した影響が身体に大きな負担をかけます。
さらに一酸化炭素は肺で吸収されやすく、血中のヘモグロビンと結合して脳の酸素濃度を下げ、思考力をすっかり下げてしまいます。
これが冒頭で書いた、酩酊とは明らかに違う「頭の芯がぼんやりしてくる」感覚の原因です。
「ぼんやり」の度合いを上から順に並べてみると


  1. 市販の紙巻きタバコの肺喫煙
  2. (RYO)シャグタバコとヘンプペーパーの肺喫煙
  3. 市販の紙巻きタバコの口腔内喫煙
  4. (RYO)シャグタバコとヘンプペーパーの口腔内喫煙
  5. パイプの肺喫煙(通常はやらない)
  6. シガーの口腔内喫煙(肺喫煙はシガーにはありません)
  7. パイプの口腔内喫煙


一酸化炭素を吸いたくなかったら、あるいはヤニクラや頭痛を起こしたくなければ、肺喫煙はやめてなるべく口腔内喫煙で味わえるtobaccoを選ぶことをおすすめします。



2014年7月5日土曜日

tobaccoの薬理作用に関するメモ(3)

3,インスタントメディテーションとしてのtobacco

広く信じられていることの一つに「タバコを吸うと覚醒する」というのがあります。
しかし厳密にはこれは誤解です。
実際には喫煙時は酩酊や鎮静します。
覚醒感があるのは、喫煙後だいぶしばらくしてからです。
パイプやシガーなどの口腔内喫煙をすれば、これが如実に分かります。

私は少しだけ瞑想の心得がありますが、喫煙はこの瞑想の状態ととても良く似ているなあと常々感じます。

瞑想はその最中は鎮静や酩酊に近い状態です。そして瞑想から抜けてしばらくしてから強い覚醒感を感じてそれが数時間続きます。

パイプやシガーの、ヘヴィスモーカーほど喫煙中は口数が少なく、また喋る速度が遅い傾向があります。それでいてぼんやりしている訳ではないのです。外界との情報が遮断され、内観が進む感じです。
まさに瞑想と同じ状態です。
ニコチンが切れた後(たぶん)は頭の回転はより速くなり明晰です。

喫煙=覚醒
ではなく
喫煙=瞑想状態〜のち覚醒

瞑想には修練や様々な条件が必要ですが、喫煙は非常に簡単です。
tobaccoを楽しんで喫すれば良いだけです。


ところでよく、タバコを吸うようになるとどんどん天井知らずに本数が増えていって依存症になるなどと言う人がいますが、それは明らかな間違いで、ニコチンの要求摂取量は耐性によって際限なく増えるのではなく、体質によってあらかじめ単位時間あたりの上限が決まっています。

例えば紙巻たばこで言えば20本/日を吸う人は、将来30本や40本になるのではなく、予めその人の体質でおおよそ20本程度と決まっているわけです。もちろん当初はこの本数に至るまでは推移があります。が、上限はほどなくやってきます。これは肝臓の代謝処理能力の差です。アルコールの分解能に個人差と耐性があるのと似ていますが、ニコチンの代謝能力はアルコールとは違い、その人が元々持つ肝臓の処理能力を越えて増えたりしません。

ニコチンが代謝されると、コチニンという物質に変わります。
コチニンは薬理作用がないとされていますが、瞑想〜覚醒のメカニズムは、このコチニン代謝が大きく関与しています。
近年、コチニン代謝の際に覚醒が起きるとする臨床報告がされるようになってきました。
ただアセチルコリン受容体との関連はないようだということは分かっているので、どうやら未知のメカニズムによって覚醒を促しているものと思われます。その効果は緩やかで持続性のあるものです。

喫煙者の実感としても特にパイプ喫煙、シガー喫煙者の場合、喫煙終了から数時間後にかけて集中力や記憶力の向上を経験する人が圧倒的に多い事から、ニコチン〜コチニン代謝が覚醒に深く関与していることは間違いなく、この事はいずれ実証されてゆくのは間違いないでしょう。

最近、ニコチンにはアルツハイマー病、パーキンソン病を予防、改善する薬理作用があると近年言われ始めています。これは20年ほど前に発表されていながら研究費の出処などから信ぴょう性に乏しいという理由で一旦否定された話です。最近また臨床でその効果が報告され始めています。

父が認知症になって以来、アルツハイマーやレビー症、ピック病、し銀顆粒性などについて調べていくうちに、認知症のメカニズムは喫煙による瞑想〜覚醒と真逆のルートを辿っているのだということが分かって来ました。
認知症は、アセチルコリン分泌が不足したり、アセチルコリン受容体にタンパク質の一種が詰ってしまい、アセチルコリン受容〜ドーパミン放出ができなくなり、うつ、記憶障害、脳細胞の萎縮に至る恐ろしい病気です。

認知症の患者は甘いものを非常に強く欲しがる人が多いのですが、これは脳内でアセチルコリンのやりとりができなくなってしまった状態で脳が本能的にドーパミンの放出を要求し、そのために砂糖を欲しがるためです。
糖を摂り過ぎると脳細胞はさらに不可逆的に萎縮を起こし始めるので糖分摂取は管理しなければならないと云われていますが、糖分摂取で一時的にはドーパミンが放出され多幸感もしくは安堵感は得られます。

目に見える効果は糖もニコチンも同じです。
ところが糖の場合、ドーパミンを放出するメカニズムはアセチルコリン系とは全く関係ないところにあるので、結果としてアセチルコリン受容体はますます用がなくなり、アセチルコリン放出も受容もなくなってしまうのです。これはドラッグのメカニズムによく似ています。

ニコチンの場合は直接ドーパミン放出や再吸収阻害はしません。その代わり常に受容体にフルに働きかけ、受容体を活性化すると云われます。結果として受容体が徐々に増えていくとも言われます。


ただしこの薬理に関して思うのは、パイプ、シガーなどの口腔内吸収に限る話ではないかという実感があるという点です。これが紙巻きタバコの場合も果たしてその通りになるのか、また薬理以上に良くないデメリットを、喫煙者自身も多く感じている故に、紙巻きタバコが主流の現代では決して広く支持される話ではないだろうなという気もしています。

喫煙の効能や薬理を考える時、やはりどうも紙巻きタバコとパイプ/シガーとでは全く別物の様な気がして仕方ない事例、現象が多いのです。




2014年7月3日木曜日

Samuel Gawith Full Virginia Flake


当分の間パイプタバコレビューは、Samuel Gawith (サミュエルガーウィズ)という、イングランド産のtobaccoについて書いて行こうと思っています。

サミュエルガーウィズの歴史が始まるのは1792年と云いますから、かなり古いタバコ会社の一つです(イギリスでは最古とも云われる)。本格的にパイプ用の葉を製造しだしたのは19世紀に入ってからだそうですが、200年前の機械を使って、今でも湖水地方の中心地ケンダルという町で昔と変わらぬレシピでtobacco作りを行っています。
イギリスらしい、実直で上質なパイプtobaccoを味わえる貴重なブランドです。ブレンド(形態)は70種以上、日本で買えるだけでも18種類、一巡するにはかなりのハイペースでフルスモーキングしても半年はかかると思います。
全てをレビューできるとは思いませんが、僕のパイプスモーキングの目的の一つに、イギリスtobaccoとじっくりと向き合いたいという気持ちが長年あります。サミュエルガーウィスはその中でも特に重要なブランドです。そんなわけでしばらくこのブランドを重点的に書いておきたいと思います。
一番目はFULL VIRGINIA というフレイクtobaccoについて。



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Full Virginia(フルバージニア)はその名の通りブレンドなしのヴァージニア種を熟成させたtobacco。サミュエルガーウィスのラインナップの中で最もポピュラーな葉。葉といってもフレイク。缶を開けると木っ端のようなものが何枚か入っている。木っ端に見えるけど立派なtobacco。

 「Flake(フレイク)」とは、簡単に言うと薄い板状になったtobaccoのこと。


缶を開けるとプンパーニッケル(ライ麦100%のライブレッド)によく似た独特の酸味ある芳香が鼻をつく。とてもモイストで見た目も感触もライブレッド。このまま食べられそう(違)。香味付けも一切なし。

フレイクの詰め方は、1時間ほど乾燥(部屋の湿度に馴染ませる)させてから折りたたんで詰めるか、縦にさきイカのように裂いた後、軽く揉んで詰めるか(Rub)、キューブカット(Cube Cut)で喫する。かなり含水率が大きいのでキューブカットもおすすめ。
(参考:フレイク、Rubとキューブカットについて)

火付きは全く良くないが、葉の含有水分の問題なので一度安定してしまえば粘りはある。最初の着火分だけ少しもみほぐした細かい葉を載せてもいい。
火種で周囲もどんどん葉が開いてくる。

喫味は序盤から終盤まで一貫してとてもマイルド。
爽やかさと暖かみが同居している。
味にクセや角やエグみが一切なく、ほんのりスパイシーな味と、一見そっけないように感じるアロマが、時折コクが顔を覗かせ思索や作業を邪魔しない程度に次第に深くなる。
甘み…というほどの甘みはないがtobaccoが本来持つ甘みと緩やかな渋み、ニコチン感がとてもバランス良く、喫後が爽やかで満足感は高い。

スロースモーキングは難しい。ブロー&ドローは頻繁か、あるいは強めに心がける。
フレイクカットはそもそも風の吹く屋外で喫することを前提にしている。念入りに揉んでこねて部屋でスロースモーキング…というやり方はこの葉の持ち味を活かしているとは言えない。簡単に粗めに裂いて緩めに詰めるだけでいいので、実はミクスチュアよりもイージーだ。

舌焼けの危険性も少ないので、煙多めにアロマを引き出すようにしながら短時間(といっても40分はゆうに超えるが)で味わい、ジュースが出たり着火ができなくなった時点で一旦休ませたほうが、この爽やかで暖かな味わいを引き出せる気がする。
終盤になっても喫味はさほど変わらないので、どうしても残り葉が出るようであれば、一旦休ませて時間をおいて再度着火すれば良い。
終盤のアロマは少しずつこってり感が出てくるが、最後まで爽やかさは消えない。
ボウルは問わないが、できればピーターソンなどジュースを気にせずに済むものがいい。

パイプスモーキングで、極端にジュースを出すのを恐れる人がいるがジュースに気をつけるか気にしないかは葉によって考え方を変えたほうがいい。

モイストで火持ちが悪い葉は屋外でパイピングするとそれが逆に過燃焼を防いでくれるメリットもあるし、ジュースもさほど出なくなる。味も爽やかで野趣あふれる。昨今はなかなか難しいかもしれないが、屋外に出て味わってみることをおすすめする。

特にイギリス葉はモイストでジュースの出やすい葉が多い。スロースモーキングや、乾燥させても喫味が変わらない葉であれば良いが、煙量を増やしたほうが旨い葉やモイストのまま吸った方が旨い葉はジュースは宿命だ。
葉が濡れてきたら火を落とせばいい。
そういう喫み方もあるということ。


時間帯は午前〜午後、屋外、一息入れたい時に。意外と朝もいける。ただしニコチンは強いので酔いに注意。
合う飲み物は、紅茶、コーヒー
1900円/50g(2014)

  1. 生葉芳香 弱←○○○○○★○○○→強
  2. 甘  み 弱←○○★○○○○○○→甘
  3. 味の濃淡 淡←○○★○○○○○○→濃
  4. 熟成感  若←○○○○○○★○○→熟
  5. アロマ  淡←○★○○○○○○○→濃
  6. 満喫感  弱←○○○○○○★○○→強
  7. 舌アレ度 弱←○○○○★○○○○→強
  8. 火持ち度 悪←★○○○○○○○○→良
  9. 常喫可能 無←○○○○★○○○○→有
  10. 個  性 弱←○○○○○★○○○→強









tobaccoの薬理作用に関するメモ(2)

2,禁煙うつだけじゃない

長年喫煙していて禁煙した人は禁煙1〜2年以内にうつを経験する確率が高い。

私はこのことを2000年ごろから公言していましたが、当時は全く信じられていはいませんでした。むしろ喫煙者はうつになるとか、禁煙して性格が明るくなったとか、そんな誤った情報ばかりでした。

十数年経過した今では禁煙うつ期間があることは常識となっています。
喫煙習慣から抜け出す時の禁断症状の中では、このうつが最も厄介です。


うつの原因として、喫煙習慣自体がアセチルコリンの分泌を減らしたりアセチルコリン受容体数を減らすからだという説がありますが、これは間違いです。

もしもそうであれば、喫煙者自体や禁煙直後から深刻なうつや脳細胞の萎縮が起きているはずです。実際にはそうはなりません。むしろうつが発現してくるのは、タバコをやめて久しい、もはや依存からは完全フリーのはずの禁煙半年〜1年目以降からです。

実際のところ喫煙習慣自体はアセチルコリン受容体の数を増やします。
禁煙後に、それまでに増えた受容体を賄うだけのニコチン供給がストップしてしまったために、サボっていても良かったアセチルコリンの分泌が急激に必要になることは確かです。しかしそれはすぐに復活し補われます。離脱症状が数日で消えるとはそういうことです。

やっかいなのは、復活したといっても喫煙していた時期の分までアセチルコリンが増えるわけではないという点です。そのことはつまり、それまでニコチンの影響で増えた受容体の分だけ、アセチルコリンが足りなくなるということを意味します。

受けるものがなくなってしまった受容体はどうなるのでしょうか。それは違うものを受け取るか、死滅するかのどちらかしかありません。

違うものとは、我々が普段「ストレス物質」と呼んでいるものです。

喫煙(禁煙)とうつの本当の関係性は、より社会学的、心理学的な側面からも論じないと説明がつきません。近年うつの患者の実数が増えていることとも深い関係があります。

人間は強い心理的ストレスを受けた際、強い毒性を持つ物質が発生します。詳細については割愛しますが、簡単に言うとコルチゾンというホルモンやアセトアミドと呼ばれるものなどで、通常はリンパ節や肝臓でデトックスされるのですが、許容量を超えると体内蓄積が始まります。これはガン細胞を作り出したりアセチルコリン受容体にアセチルコリンやニコチンとは全く逆の作用を持つドーパミン抑制物質として働き、脳細胞の萎縮を引き起こします。
ニコチンは適切なドーパミン脱抑制を通じてこの許容量を超えた分が受容体と結びつくことを防ぎ、さらにそれによってストレス物質のキレーションまでしてくれるのです。

喫煙はストレスの軽減に大きな効果があることは医学的にも証明されていますが、喫煙者はそれまでこのストレスの解消をほぼニコチンに頼っていたために、禁煙後にそれに匹敵する方法を見出す事が難しい傾向があります。それだけニコチンの効果が強いという事です。

喫煙者がタバコを吸わないとイライラするというような話がまことしやかに言われています。実際喫煙者が短時間の断煙でイライラするのはニコチン切れによるものではなく、後述するコチニン効果によるもので、覚醒が進んだ状態です(コチニン効果は医学的にはまだ証明されていません)。
それよりも、禁煙後1年以上経過のイライラの方がより強く、対人許容度が著しく低下していることの方に注目しなければならないと思います。

禁煙によってストレス物質がデトックスされずに蓄積し始めると、徐々にストレスの発生源に対して強い警戒心や拒否反応が本能的に起こります。
これが長期間に渡って続くと、うつが発現するのです。うつとは社会的ストレスからの隔絶であり、身体と心がホメオスタシスを取り戻すために起こすための最終反応です。

しかし、実のところ、禁煙だけがうつの原因なのでしょうか。
私はむしろ喫煙経験のない人がうつになった時に、そもそも人間が本来の社会生活では失わなかったはずのものを、喫煙習慣を持たないことで失いつつあるのではないかと感じるのです。

それは打たれ弱い人があまりに多くなったと感じる事と関係があるようです。
いや、打たれ弱いというよりも、今までならうつになってもおかしくなかった社会的ストレスの多くは、喫煙で対症療法的に「簡単に」解消されていたのではないのか?ということです。

ゼロストレスで社会と向き合うことは不可能です。
ルネサンス以降の文明の飛躍的発展と産業革命、現代に至るまで、私達の社会的抑圧やストレスは増す一方です。その傍らでtobaccoは常に人間に最も身近な頓服としての歴史を歩んできました。

そのピークは紙巻きタバコが世界的に普及した第二次世界大戦後まもなくのことで、成人男性の実に80%以上が喫煙者となる時代がありました。世界的に驚異的なスピードで戦後復興を成し遂げた裏には、ストレスや無理を強いて励んだ労働があります。そのストレスを人々はタバコやお酒で癒やしたのです。

時間刻みのスケジュールで動かなければならない現代社会において社会的心理的ストレスなしで生きることは100%不可能と言っていいでしょう。
もしもこのまま喫煙人口を減らしながらうつも減らしたいのなら、労働時間を現在の半分程度まで減らし、経済活動のスピードを緩めれば緩めるほど発展する文明を創りださなければならないでしょう。


ニコチンは、ドーパミンの抑制及び脱抑制の両方を行います。そのために常に人間の活動を促すために必要な量のドーパミンとセロトニンの生産を適正に保つ薬理作用があります。他の薬物のような、いたずらにアセチルコリンの代わりにドーパミン放出の指令だけを出すのではないのです。
問題は、禁煙後はニコチンの補佐がないので、そのバランスが崩れやすくなるということと、ニコチンに匹敵するような適切なドーパミン放射の方法を見出しにくい事にあります。

禁煙うつから脱するのに最も効果的な方法は、全くもって楽しい事ばかりの牧歌的な生活を送るか、筋力負荷の高い運動を継続的に行うか、断食、玄米食療法、瞑想のいずれかです。

でもそれは喫煙習慣が新大陸から入ってくる以前の精神生活に戻るということも意味しているかもしれません。



2014年7月2日水曜日

フレイクのラブドとキューブカット

「Flake(フレイク)」とは、簡単に言うと薄い板状になったtobaccoのこと。
収穫されたtobaccoは何枚にも積層化され圧縮加工されてCake」とか「Plug」と呼ばれる大きなブロックの状態で保存されます。これは嫌気熟成のためです。それを縦に薄くスライスしたものがフレイクです。ハードタイプのチーズやプンパーニッケル(ドイツの100%ライ麦パン)のような形状です。フレイクはこのままではパイプのボウルには入りません。


イギリスtobaccoはどんな形態にせよおしなべてかなりモイスト(湿っている)なのが特徴です。それは喫煙者のことを考えてというよりは、加工上の都合のほうが大きいと思います。
もちろんこの特徴は喫味にも大きく貢献はしているのですが、同時に着火性や火持ちの悪さにも繋がっています。ただ昔の資料を見ると「スポーツ時に良い」というような宣伝文句を見ることがあります。確かにフレイクをそのまま折りたたんで詰めると、屋外の風が吹いている場所でちょうどよく燃えてくれます。もっとも缶から出してそのままではいずれにしても火が付くことはありません。そこで取り出してからしばらく乾燥させることになるのですが、フレイクのままだと2〜3時間、ほぐしても最低30分は必要です。乾燥というか、室内の湿度になじませると言った方が正確かもしれません。

その後でパイプに詰めるために折ったりちぎったりほぐしたりします。
その方法は人によって様々な方法があり、本来は4つ折りにして捻りながらパイプに詰め込んで喫う方法です。
この方法が最もフレイクの味をしっかりと味わえる方法です。ただ、これをマスターするには詰め方のコツが要ります。
失敗しない方法としてもっともポピュラーなのは、左写真のように、少しだけほぐし、さきイカのように縦に裂いた後に2つ折り3つ折りにしてパイプに詰めていく方法です。「Broken Flake」と呼ぶそうです。これは例えばマクバーレンのヴァージニアNo.1がパウチに「Ready Rubbed」(揉んであるからこのまま詰められるよ)の形態で入っているのに似ています。私はこの方法で喫うことが一番多いです。
人によってはさらにこれを念入りに指で裂いて揉んでリボンカット(よく見るtobaccoの葉の形状)状にする人もいます。



火付きや火持ちが極端に良くない場合などは、少し時間はかかりますが、やや粗めに縦に裂いたものを、左写真のように、ハサミで切ってキューブにしてしまいます。この方法は昔パイプを始めた頃読んでいたイギリス文化について書いた本に「ソフィストケートされた方法」として紹介されていた方法です。本当かどうかは知りません。作業はややメンドクサイです。

半面「火付きのために念入りに揉みほぐす」ような方法に比べてメリットが多い方法でもあります。キューブカットはほぐして詰めていくのではなくキューブのままボウルにパラパラと入れて喫します。葉の密度を一定にしやすく、乾燥時間もほとんど要らず、火持ち良く味もマイルドでモイストを保ったまま安定したスモーキングが可能です。スロー&クールスモーキングが容易に実現でき、マイルドさもtobaccoが持つ香りやアロマもキープしやすい特徴を持っています。欠点は序盤ちょっとした衝撃で火種や灰が飛びやすいことです。ですから屋外向きではありません。

キューブカットの状態で売られているtobaccoは世の中にはあまり存在しませんが(日本で買えるのはおそらく1社2種)、要するに最後のパッキング段階での作業工程の違いだけですから、フレイクtobaccoなら全てキューブカットにして喫うことができます。

tobaccoの薬理作用に関するメモ(1)

1,tobaccoの依存性は、喫煙方法やtobaccoの種類によって全く違う


tobaccoの薬理と言っても、それは殆どニコチンの薬理とイコールです。
そしてニコチンを語る上で絶対に外せないのはニコチンの依存性についてです。

ニコチンは最近は物凄い依存性があるような誤解をされていますが、医学的にはニコチンそのものには、軽い精神的依存性(離脱期間約数日)はあっても身体的依存性はないと言われています。

しかし実際には、レディ・メイド・シガレット(市販のいわゆる紙巻たばこ)の禁断には倦怠感や焦燥感というハッキリとした強い身体的依存性があります。しかも数日続くことがあります。
またシガレットの精神的依存(吸いたいという衝動)による離脱期間は確実に数週間から一ヶ月ほどかかります。これも先述した本来のニコチンの離脱期間とされている「数日」とは非常にかけ離れた実情です。

これはシガレット特有の現象です。

パイプやシガーの場合、身体的症状も精神的症状も全く起きないか、起きたとしても軽い精神的症状、しかもそれが起きるまでの間隔がシガレットとは比べ物にならないほど長いのです。
依存性がないわけではありません。ただパイプスモーカーは、丸一日吸わなかったとしても平気だと口をそろえて言います。シガーだけを嗜む人に至っては、半月に一本というようなペースの人も珍しくありません。


どうしてこういう事が起きるのでしょうか。
このことはシガレット特有の、肺喫煙を行うことで生じる気管と肺への刺激と、急激でダイレクトなニコチンの吸収に関連性があります。

シガレットを深く吸い込み、煙が気管支から肺にかけて駆け抜けた時に「カッ」という感じの強い刺激を感じます。これはタールや添加された香味によって起きる刺激です。その刺激自体には本来は何の意味もありません。

ところが「タバコが吸いたい」という衝動が起こった時、多くはこの深呼吸と「カッ」という刺激そのものをイメージして喫煙場所を探しています。これをトリガー刺激と言います。

実際に肺喫煙した場合、この深呼吸と「カッ」の刺激の次の瞬間、ニコチンが急激に肺から吸収され脳に運ばれ、神経伝達系がドーパミン放出を助けます。この間数秒。この時トリガー刺激と実際の快楽の連携が起きています。

トリガー刺激があり、そこから吸収〜ドーパミン放出までの時間が短く直接的で、かつ強いと、人はドーパミン放出物質への依存だけでなく、トリガー刺激そのものが脳にドーパミン放出の指示を出すのです。その結果、トリガーに依存します。

ニコチンに限らずトリガー刺激は、その依存症になった人にとっては身体的依存性を引き起こします。一種の催眠状態です。

ニコチンがあろうがなかろうが、とりあえず気管へのトリガー刺激を求めてしまうのです。このトリガー依存は、実際の薬理的依存性よりもずっと深く長く続きます。

この現象をお酒に例えると、ビールや発泡酒に相当します。ビールは飲酒経験を持つ人なら夏になると必ず一度は飲みたくなります。それは夏の暑い日に爽やかで刺激的な喉越しというトリガーを体験しているからです。そのトリガーのあと、炭酸によって吸収力が飛躍的にアップしたアルコールが急激に肝臓〜血中に吸収され、軽い酩酊を感じます。
アルコールの度数は低いのに、毎日飲まずにはいられなくなる、いわばゲートアルコールの役目を果たしています。
フィルターを通して限りなく濾過された澄んだビールほどそうなります。

市販の(工場製造の)シガレットの場合はさらに輪をかけて、このトリガー刺激が非常にうまく調整されていて、特にフィルター付きタバコの気管〜肺刺激感覚は、シャグやパイプ、シガーのそれに比べて、こう言っては語弊もありますがかなり心地よく依存性の高いものになっています。

フィルター、香料、添加物、薬品などで実によく計算され調整されていて、深呼吸〜気管支刺激のトリガー刺激だけでもかなり依存性の高い状態を作り出すことができます。それを補完するのがニコチンの吸収速度であって、実際にはニコチンなど微量でも構わないのです。いや、微量であればあるほど、喫煙者はそれを求めずにはいられなくなります。足りないから。それでニコチンが0.1mgであっても確実に依存性を持つものになっています。
シガレットのヘヴィスモーカーでもパイプを一度吸っただけ(しかも口腔内喫煙)でニコチン酔い(急性ニコチン中毒)を起こす人がいるのはそのためです。



このことを踏まえれば、紙巻きの依存性の高さと、スニッフ(嗅ぎタバコ)、パイプ、シガーの低い依存性との比較がよく理解できると思います。
スニッフにも軽い身体的依存(頭痛や倦怠感、喉が渇くなど)がありますが、精神的依存性はシガレットよりはずっと弱いのです。
スニッフはトリガー刺激はシガレット並に強いですが、鼻腔内ニコチン吸収の速度が肺ほどには速くないため、トリガー連携がシガレット肺喫煙ほど明確ではありません。

パイプやシガー(葉巻)はさらに緩やかであり、身体依存性は皆無であり、精神依存性についてもアナウンスされているものよりもずっと小さくて済みます。



もしもシガレットで禁煙できずに悩んでいらっしゃる方がいるのなら、無理なくニコチン依存症からフリーになる方法があります。

それはまず、今すぐ肺喫煙をやめることです。
肺喫煙をやめるためには、強いタバコに替えます。
シガーに変えられるのであれば理想的です。

もしもシガレットのままでしたら工場巻きのシガレットをやめて、RYO(手巻きタバコ)に変えます。
これで燃焼剤や添加物の入った有害な巻紙とサヨナラすることができます。
そしてできれば無香料無添加の葉を選ぶことです。
これで「吸いたくてどうしようもない」という衝動からは完全に逃れることができます。
タバコの呪縛から離れ、自由に喫煙の楽しみを味わうことができます。
禁煙したいと思えばすぐにできます。

シガレットとパイプやシガーが身体に与える影響の違いは他にもあります。
パイプや煙管は咳を止めてくれるのに、紙巻きタバコは喉や気管を痛める。
パイプやシガーは頭脳を明晰にしてくれるのに、紙巻きタバコを吸うとその後どうしても吸わない時にアタマが働かないなど。。。

ファクターは肺喫煙と口腔内喫煙だけではなさそうです。
シガーなどは価格の問題もあるかもしれません。
熟成によるニコチンや成分の変化もあるのかもしれません。

お酒と同じです。熟成を重ねた良い酒は依存症になることは滅多にありません。
しかし工場で作られた安い添加物だらけのお酒やエチルアルコールに近いお酒は度数に関わらずあっという間に依存症を作ります。

工場巻きのフィルター付きシガレット+肺喫煙は確実に身体的依存を伴います。精神的依存性もパイプやシガーに比べてかなり重いです。
ニコチンやタールの多寡には全く関係なく。

余談ですが、日本のビールは現在アルコール度数5%ほどです。これを半分の2.5〜3%にすればもっと売上は伸びるはずです。

2014年7月1日火曜日

tobaccoの薬理作用に関するメモ(序)

学生の頃にtobaccoを覚えてから約15年ほどの間、僕はヘヴィが付く喫煙者でした。

tobaccoを覚えて2年もしないうちにパイプに手を出し、それから喫煙している間、一度もtobaccoをやめようと思った事はなく、自分は一生tobaccoと付き合って行くんだろうなと思っていました。

ところがある朝起きた時に「あ、tobaccoを吸うの、やめよう」と突然思いました。
そしてその日から15年間、一度も「吸いたい」という衝動は起きず
このまま自分は一生tobaccoとは無縁に生きていくのだなあと思っていました。
そんな訳で約15年間の完全禁煙生活を体験しました。

禁煙(断煙)はさほど苦労しませんでした。
あれほど耽溺していた(様に見える)タバコへの衝動は一日目にあっただけで、次の日からはほとんどどうでもよくなり、3日目にはすっかり忘れてしまうのです。

ニコチン依存症がどうとか言われますが、セブンスターやゴールデンバットを一日に20本以上吸っていた自分でも「やめよう」と思い立ってからそんなものを感じた事は一度もありません。

tobaccoを嗜む生活は楽しいものです。
でも、一方で、tobaccoとは無縁の生活も実に素晴らしいものでした。


2014年、とあることがきっかけで喫煙を再開しようと思い立ちました。
再開した理由についてはまた後で書きたいと思いますが
禁煙した時とは全く違い、再開のためには長い逡巡と、小さくない決断力が必要でした。



ともかく喫煙と禁煙に関して非常に多くの体験と教訓、そして知識を得ました。
メリットもデメリットも、文化や歴史や薬理や嫌煙権、陰謀論まで。

禁煙期間も今も、世の中の嫌煙権主張のあまりのヒステリーぶりに閉口し、同時にところ構わず吸いさしを持った手を振り回したりクルマの運転席からのポイ捨てに怒りや切なさは感じています。
しかし嫌煙権のおかげで分煙が進み、喫煙者のマナーが少しずつ良くなっている事は歓迎すべきことだと思います。

やはり人はむやみにタバコの煙を撒き散らしてはいけないし、自分の意思に反して煙を浴びるべきではないのです。

ちょうどいい生きやすい世の中ができる前には、必ずどちらかに針の振り切れる堅苦しい時期は必要なものです。嫌煙の方に針が振りきれた今だからこそ、やっとより良い喫煙とはどうあるべきか喫煙者自身が考え始めたのですから。

心配しなくてもtobaccoはこの世からなくなりません。
世界中の歴史上、何度も禁止されかけてはくぐり抜けてきたtobacco。
未来はもっとこのtobaccoが人類の役に立つ日がやってくるでしょう。

そのためにも、そろそろこの何千年にも渡って人間と共存してきた煙の出る葉っぱについて、正しい知識と見識を持つべき時に来ているのではないかと考えています。

特に今、広く伝播されているニコチンの薬理や依存性、害といわれるものについてはかなりの誤解と誤謬があると考えています。
ここがほんの少し解けるだけでも、喫煙者も嫌煙者も、少しは気持ちがラクになってくるのではないのでしょうか。

そんな気持ちを込めて、僕が知り得たtobaccoの本当の薬理と害についてメモしておこうと思います。

参考になるかどうかは分かりません。
また、これから書く事は個人的経験と常識、託言および仮説によるものであり、科学的医学的に証明されたものとは限りません。
また喫煙を擁護したり奨励するものではありません。
もちろん喫煙を否定するものでもありません。