バージニア
サミュエルガーウィス社最古の葉の一つに挙げられるグラウスムーア。
しかし決して古臭いtobaccoではない。それどころか21世紀の今でさえもこれほど洗練された美しいtobaccoは他に見つけるのはなかなか難しい。
古いイギリスtobaccoでありながら着香系という、ちょっと異色の存在でもある。(イギリス葉は1980年代までtobaccoへの着香料使用は厳しく規制されていた)
それ故、着香系とは言ってもコンチネンタルなそれに較べたら、着香などされていないも同然の自然で優しいものだ。
生葉は爽やかなフローラルとフルーツケーキのような香りが入り交じった優しい女性的な芳香がする。どことなくりんごの香りもする。
葉様は色がとても明るくて山吹色に近い。缶にはみっしりと圧縮されて入っているが、他のサミュエルガーウィスのようにしっとりはしていない。比較的乾いた葉だ。よって火付きも火持ちも全く苦労しない。
序盤、豊かなアロマと優しいほのかな甘み。それは砂糖や蜂蜜や甘味料などでつけた分かりやすいべったりした甘さではなくとても自然だ。かといってバージニア特有のそれだけでもない。フルーティな甘みがバックグラウンドにある。
この葉はアロマは私が喫ったそれほど多くない葉の中では間違いなく3本の指に入る。バターとまではいかない、若いチーズのようなクリーミーなアロマと、抑えの効いたフルーティな甘みのハーモニーは本当に素晴らしい。
この由来は一体何だろうと思い、想像を巡らす。
生葉の芳香からリンゴかなあと思ったが、リンゴ系特有の強い残香はない。もしかすると生葉で感じたリンゴのような香りはカモミールなのかもしれない。
ふとブラックベリーやラズベリーをコンポートにして酸味を飛ばすとこういう風味が出ることを思い出した。元々のベリーの甘酸っぱさとは全く違う練られた甘み…そう、これはワイルドベリーのケーシングだ。もうひとつ、ペア(洋梨)を連想させる。ケンダル地方がペアの産地であるかどうかは分からないが、明らかにペアを彷彿とさせるアロマが顔を覗かせている。
中盤〜終盤にかけてフルーティなアロマは次第に弱くはなっていくが、消え去って別物になることはない。喫味はあくまでもマイルド、そしていつまでも飽きない。
大陸系の着香葉にはいくらでもアロマや甘みが強いものはある。しかしそれらの殆どは強すぎて喫っているうちに飽き飽きするし、結局tobacco本来の旨味をとるか着香のアロマを取るか二者択一になってしまうようなところがある。
しかしグラウスムーアはそのどちらも損ねることなく両立している。あくまでも自然で主張しすぎることなく、たっぷりとバージニアとアロマを味わえる深いtobaccoだ。これほどイマジネーションを掻き立てられるtobaccoも珍しい。
tobaccoは飲み物だけでなく、音楽ともとても合う。
限定はしたくないがグラウスムーアはJ.S.BACHのピアノやチェンバロ曲がとても良く合う。特にグレン・グールドの弾くゴルドベルク変奏曲。これは20世紀の演奏だが伝統的なそれとは一線を画し情緒的で緩やかな時間が流れていくような音楽だ。本来は子守唄代わりに作曲されたものだが、グールドの演奏とグラウスムーアの煙は草原にいて陽の光を浴びて寝転んで流れる雲を見ているようなそんな感覚にしてくれる。
グレン・グールド ゴルドベルク変奏曲(1981年盤)
喫感はマイルド。ただしニコチンは軽くはない。
時間帯は朝〜午後にかけて。
合う飲み物は紅茶、水など。
1900円/50g(2014国内)
- 生葉芳香 弱←○○○○★○○○○→強
- 甘 み 少←○○○○○★○○○→多
- 味の濃淡 淡←○○○○★○○○○→濃
- 熟成感 若←○○○○○★○○○→熟
- アロマ 淡←○○○○○○★○○→濃
- 満喫感 弱←○○○○★○○○○→強
- 舌アレ度 弱←○○○○★○○○○→強
- 火持ち度 悪←○○○○○○○★○→良
- 常 喫 無←○○○○○○★○○→有
- 個 性 弱←○○○○○○★○○→強
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